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本校舎からの渡り廊下(と、言っても屋根が付いてるだけで、一旦土足に履き替えなければならない)を歩いている途中から、ポツリポツリと雨粒が落ちて来た。
降り始めからかなり大粒だ。
まだ夏の気配を残す大気の重さ、大降りになる気配の濃厚さに、迷わず足を早めた。
旧校舎のエントランスに辿り着いた時には、歩いて来た道にも水溜まりができ始めていた。
あーあ、靴下ちょっと濡れちゃったよ…。
軒下の階段で靴を脱ぎ、つま先を見て小さく溜息をつくと、突然、雷鳴が轟く。
「ひゃっ…!」
首を竦め、まるで追い立てられるようにして、急いで旧校舎内に駆け込んだ。
途端に、更に強まる雨足。
あっという間に、数メートル先さえ見えなくなってしまう。
本校舎や、校庭の樹々も見えなくなり、この世に旧校舎と自分しか存在しないかのような錯覚を覚えた。
まあ、そんな訳ないけど…。
相談員の人、いっぱい中にいるって言うし。
備えられたスリッパに足を通し、真っ直ぐ伸びた廊下を見渡す。
同じようなドアがズラリと並んでいる。
雨に煙る校庭のように、その1番奥までは霞んで見えなかった。
この建物内って、こんなに長かったっけ…。
高台に建つこの学園の前になだらかに横たわる楓ヶ坂。
それを見下ろす位置に、つまり敷地ギリギリに、旧校舎は建っている。
普段授業を受けている教室の窓から、その全体像はよく見えていた。
確かに平屋建てで横に長い造りではあるが、中に入って廊下の終わりが見えない程長かっただろうか。
まるでひと昔前の怪談みたい。
その連想を、更に掻き立てるかのように、校庭に面した窓の外は昼とは思えない程真っ暗で、雷鳴は廊下を、時にモノクロ写真のようにくっきりと照らし、雨音は廊下を歩く自分の足音が聞こえない程激しく窓を叩いた。
自然の演出に怯えつつ、教室の札を見上げながら、奥へとゆっくり歩を進めていく。
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