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とある貧しい村。
そこには、優しい両親を持つ五歳の女の子がいた。
村の領主は貪欲で、村が地図に載っていないのをいいことに、村人から重い税を取り立てる。
貧しい村の中でも、特に貧しいその一家は、毎日食べるものに困っていた。
そんなある時、領主が娘を引き渡すように、と両親に言った。
そうすれば、一生税は払わなくていい、とも。
可愛らしい容姿に珍しい銀髪、賢い頭脳を持つ女の子を領主に渡せば、一生食べていけるお金も手に入る。
しかし、領主の人柄を知っている両親は、それをしなかった。
あんな人の元へ行っても、この子は幸せになれない、と。
だけど、これ以上娘を苦しめたくない。
そう思った両親は、領主の手に渡る前に殺してあげようとも考えた。
が、知識のない両親は、どうしたら楽に死ねるか知らない。
考えた挙句、出した答えは、捨てるというもの。
“帰らずの森”
唯一この村に面している森だ。
その名のとおり、ある程度の強さが無いと生きて帰れない。
そこに住む強い魔物なら楽に殺してくれる、運が良ければ誰かが拾ってくれるかもしれない、そう思い、女の子を捨てた。
両親は領主に女の子を捨てた事を隠すため、そして、どんな理由があれ愛する子を捨てた戒めに、と自らの体を刺し、決して軽いとは言えない犠牲を払った。
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