第一章

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時は平安。 三条大路に面した一際大きなお邸に住まうのは、大納言・藤原兼近の一家にございます。 この大納言は、摂関政治を確立した藤原北家の嫡流で、その正妻・時子もまた、村上天皇を祖とする源氏の娘という、まさに貴族の中の貴族にございました。 その貴い血筋を受け継いだのは、四人の美しい姫君たち。 大君(長女)の市佳姫はこの度の除目(ジモク・人事)で中納言に昇進した藤原実次に嫁ぎ、既に四人の御子を成し、六条にある中納言の邸で暮らしております。 中君(次女)の二葉姫は、今上帝である光徳天皇の女御として入内致しました。賜った殿舎の名より承香殿の女御と呼ばれ、帝の寵愛を受けておられます。 三の君の美月姫は、近衛少将である源良実を婿取りし、二人の御子を成し、この邸の東の対屋に暮らしています。 そして残るは、四の君の紫苑姫。 四姉妹の中でも一際美しいこの姫は、裳着を迎えて一年ほどの、御年十六歳。 身の丈より数尺余る濡れたように艶やかな髪と、白粉要らずの白い肌。黒々と輝く瞳に丸い頬は、見る者のため息を誘う程可憐で美しいのです。 けれど紫苑姫はまだ独身で、この邸の西の対屋に暮らしておりました。
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