とのさまゲーム

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朝から晴れて、特に用事のない日曜日。 愛犬を連れて散歩に出た。 久しぶりだった。 ところどころの空地に雑草が生い茂り、道端には黄色い花が咲いている。 「おい、ロッキー! たまには公園に行くか?」 僕は、リードを緩めた。 「ワンッ」彼は嬉しそうに応えて走り出した。 ロッキーが公園の階段を駆け上がる。 僕はリードを詰めてグリップを強く握った。 彼のフットワークについて行ける筈もない。 僕はリードを強く引いてロッキーの勢いを制御した。 「とのさまのメーレーはぜったい!」 子供達のその声は公園の砂場から聞こえた。 「えっ?」 僕とロッキーは、立ち止まった。 小学生……それも低学年と思われる男女数人の子供達が、砂場を囲むように立っている。 砂場の真ん中に居るのは男の子のようだ。 「早くしろよーっ!」 「そうだよ。とのさまのメーレーはぜったいなんだから、にげられないよっ」 「だ……だって」 「だってじゃないよ。あたしも、きのうやったんだから」 「そうだよ。あやかだって、すっぽんぽんになったんだから、リュータもやんなさいよっ」 「そうだよ。ぐずぐずしてんじゃねえよ!」 「おれなんか、髪の毛10本ずつ抜かれたんだからな」 「そうだよ、そうだよ。はっやっくっ!」 リュータと呼ばれた男の子は、半べそで服を脱ぎ始めた。 何という事だろう。 【とのさまゲーム】は、ゲーム業界にあって空前のヒット作だという。 だが、これは何なのだ? 人の嫌がる事を強制し合って、あざけり合う事に何の意味があるのだろう? それは楽しい事なのだろうか? いや、あの子供達の表情を見る限り、楽しそうには見えない。 自分も理不尽に辱しめられたのだから、お前も辱しめを受けろ。 自分だけが被害に遭うのは割りに合わない。 順番に全員が被害に遭えば公平だ。 恐らく、そんな理屈なのだろう。 バカな遊びだ。 狂っている。 子供達は何も解らないまま、流行っているから真似をした。それだけの事に違いない。 これを危惧していた。 だから、あれほど言ったのだ。 子供達への影響を考慮した出版をせよと。 子供達は、大人の用意した書籍を読み、コミックを読み、ゲームで遊ぶのだ。 子供達が選ぶのではない。 大人が、このゲームで遊ぶようにと置いたのだ。 だが、黙殺された。 売れない者の妬みだと。
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