kiss 3 [愛しの我が君]

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☆☆☆ 高嶋さんに会ったのは、去年の夏。 其の日の夜は、 ものすごく蒸し暑く、 しかもクーラーの故障から、 窓全開で大分前から使わなくなった ミニ扇風機を クローゼットから取り出し、 生暖かい夜風に当たりながら、 眠れぬ夜を、 だらだらとベッドの上で過ごしていた。 外でゴソゴソという物音がして、 何とはなしにベランダを見た時に、 丁度ベランダの手すりに足を掛けている 全身黒尽くめの男と目が合った。 一応補足するが、 我が家は3階である。 「きゃーーーー!!変態!!!!」 ……というのが私の第一声。 それに慌てた男が ベランダの手すりから手を滑らせた。 少し遅れて、 男が階下の芝生へと 落ちた鈍い音が耳に届いた。 慌ててベランダに出て、 真下を眺めると、 黒いナップザックを持った男が 腰をさすりながら、 私を見上げ、憎々しげに睨みつけていた。 日本人離れした、顔のパーツの大きな男。 腫れぼったいタラコ唇が、 白く月夜に照らされていた。 そして男は私を一瞥した後、 1階と、通りを隔てる柵を乗り越えて消えていった。 其のときは、 襲われずに済んで助かった程度で、 被害が無いから 警察に連絡する必要もないかと思い 窓をきっちりと閉めて、熱帯夜を過ごした。 だが、男は、 我が家に侵入しようとしたわけではなく、 別の目的があったのだ。 .
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