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プロローグ。
…見上げる空には、青と紫の雲がたなびいている。
…目を落としたのは、手元の小瓶。
苦しみもないまま眠るように深く青い夢の淵に身を沈める為の甘く恐ろしい薬。
絶望に縁取られた木立の丘で、胸元には彼女の分身の花が揺れる。
来世ではきっと、今度は俺が…
『赤いチューリップの花言葉を知っている?』
……きっと、きっと渡してみせる。
一気に傾けた小瓶の中の紫色の液体が、喉を通り過ぎたのを確認して俺は笑んだ。
しばらく、は…
屋敷の者も気付くまい。
俺は誰にも縛られない。
俺は運命なんか、受け入れない。
…全力で逆らって見せる。
選んだ結末は、幼い頃読み聞かせられた童話とは程遠いけど…
力の入らない手で、その花を握りしめながら俺は笑んだ。
「…意味、分かったよ。今から伝えに、行くから…」
…ぼやけた思考、動かない手足。
怖くなんて、ない。
きっと、たどり着いた先には君がいるから。
だから、君の隣にたどり着いたら。
聞かせてよ、花言葉を………。
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