ノスタルジアから

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よりによってこんな日に、こんなに空が青い事を、その少年は誰にでもなく文句を言いたかった。 眩しくて、手を翳して空を仰ぐ。 空、青。雲、白。 そして、手の甲の赤。 「こんなに、良い天気なのに――」 身体中に血の色。辺り一面には狼の屍。 少年は汗が一雫流れたのを感じながら、虚ろな目で見回した。 出来れば目の当たりにしたくはないが、討伐数を確認しなければ帰れない。 いち、に、さん……全部で11。 よし、依頼通り。 数えるなり指をパチンと鳴らす。すると狼は一匹残らず消え去った。まるで、蒸発するように。 浄化という魔術の一つで、魂を浄化し天国へと導く。同時にその屍もあるべき場所へと還してくれる。魔物討伐にあたって、なくてはならない術である。 「……そうだ」 依頼を終えたら連絡するように、と通達が入っていた。 漸く、ゆっくりとした動作で携帯電話を取り出した少年は、それを耳に当てた。
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