プロローグ――群雄たち

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社会人野球のシーズンの始まりを告げる、JABA東京スポニチ大会。 その3日目、神宮球場での第一試合。 CTR横浜熱球倶楽部 対 新横浜石油ENESSA。 その試合開始の、数分前。 ――神奈川県鎌倉市・北条重工業大船事業所。 硬式野球部・クラブハウス。 「監督ぅ~! 伊勢監督ぅ~!!」 素っ頓狂な若い女の声が、クラブハウスに響き渡る。 「うっせーなド阿呆。そんなでかい声出さなくても聞こえてるよ」 気だるそうに返事をしたのは、部屋の奥で競馬新聞を頭から被ってソファに寝転がっていた、一人の中年男だった。 「伊勢監督! 試合始まりますよっ! ENESSAの試合が! さ、早く!」 ジャージ姿の若い女は、中年男――北条重工硬式野球部監督・伊勢 氏康(いせ うじやす)をソファーから引っ剥がすと、強引に引き摺るように、TVのあるミーティング室へつれてゆく。 「そんな強く引っ張んじゃねぇよド阿呆! 肩が完全に壊れるじゃねぇか!」 伊勢監督が引き摺られつつ怒鳴ると、ジャージの女は怒ったようにこう返す。 「さっきからド阿呆ド阿呆って! アタシには“成田 恋(なりた こい)”っていう立派な名前があるんですから!!」
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