第一章

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9月9日 イラク バグダード 1050時 強襲遊撃群特別対応班SRTチーム6 秘匿名『デルタ』  弾薬箱の雑多な5.56ミリ弾を、無造作に一つ取り、弾倉に押し込む。  バネが反発して押し返すのを、無理矢理押し込み黙らせる。  また一つ取って押し込む。  繰り返し、反復。 「アメリカ製のカービンライフルは弱い。温室育ちが性能に現れてる。ソ連製は頑丈でいい。使いやすいしメンテナンスも楽だ。粗雑だがいい銃だ。打って変ってドイツ製は繊細で洗礼された芸術品といえる。スイス製は上品で美しい。ベルギー製はいまいちだ。オーストリア製は安定して信頼に足る性能がある。日本製は文句の付け様がない。さすがメイドインジャパン。けど、アメリカ製は駄目。鉄くず。エリート気質が銃にも出ている。貧弱で直ぐにジャムる」  いいながら、彼女は弾を込めた弾倉を並べて、また別の、空の弾倉を手に取った。金属製よりもいくらか軽量で使い勝手がいい樹脂製の弾倉だ。  黒髪碧眼。整った顔立ちと不気味なほど澄み切った聖者のような眼差し。少し長めの後ろ髪を髪留めで止めた美人だが、首周りを覆い隠すように巻いたシュマグで口元を隠したその表情は、果てしない無を感じさせる氷のような無表情。眉一つ動かさず、瞬きすらしていないように感じる目の前の女を、上目使いに一瞥し、自身も手元で分解されたドイツ製カービンライフルを組み立てる。  部品点数が少ないショートストロークピストン式のカービン銃の、デザートカラーの塗装が剥げ、下地の黒と金属色が伺えるフレームに、銃の臓器を組み込む。なめらかな機関部の動作。硝煙とガンオイルの香しい臭いは中毒性が有るように思わせる。 「イギリス銃も貧弱さでは世界一だ。あれで戦う兵士が哀れすぎる。イギリス軍はあれで戦う兵士の気持ちを少しでも考えているのだろうか?重いだけで弾もまともに撃てない、ただの鈍器としての価値しかない。それならまだ汎用性のあるスコップを使えばいい」  だからどうした。そう言いたくなるが、生憎この手の話題でだけは彼女は饒舌だ。暇つぶしには丁度いい程度の小話。各国軍隊を偏見のみで批判する姿は、最早清々しさすら感じられる。何より、案外的を射ている事があって、ついつい笑ってしまうのだ。
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