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この街は相変わらず寂れている。
ジェルダスは来る度に思う。
かつての戦争の残骸と痛みや悲しみをそのまま映していた。
「貴方が笑うって珍しいわね」
情婦のエレンは白いシーツに包まり、妖艶に口元に弧を描く。
皮肉を口にするその唇はいつ見ても魅力的で吸い付きたくなる。
「そうか?」
「だってジェス様は氷の騎士様でいらっしゃるから」
エレンがわざとらしく口にするのだから、そうなのかもしれない。
内心ジェルダスも笑う。
エレンとジェルダスは短い付き合いではない。
ここに来るたびに導かれるように泊まる娼館で相手をしてくれるのがエレンだった。
「止めてくれないか、恥ずかしい」
「これでも褒めてあげているのよ?」
ここはタザニア。
エストレア王国極東の街だ。
なぜかジェルダスは1年に1度だけここを訪れ、町の外れの森の奥にある娼館に泊まる。
まるで何かを探すように……。
「そうか」
「ところで見つかったの?貴方の探し物は?」
「いや、わからない。何をなくしているのかさえ」
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