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初夏…
ワイシャツの袖を捲りあげ会社のPCに向かっている俺は次のプロジェクトで使う企画書作りをしていた。
この間まで行っていた支社とは違い和気あいあいなんてムードはなくて、みんな業績を上げる為ただひたすら無言でキーボードを叩いている。
「堀川、企画書の方は大丈夫か?」
『あ、はい。 大丈夫っす……杉浦さんは上がりですか?』
俺の斜め前にいる杉浦さんはデスクの上の私物を眈々と片付けながらこっちを一瞥して頷く。
「ああ、悪いな」
『全然いいっすよ、可愛い奥さん1人で待たせてたら可哀想っすもんね』
茶化すようにそう言葉を落とせばバーカなんて軽く笑った声が返ってきた、その後すぐにお疲れ。 なんて挨拶を交わし杉浦さんは足早に職場を後にした。
『……。』
可愛い奥さんがいて羨ましい、俺なんて遠距離恋愛だもんな。
遠くにいる彼女の事を想い、はあなんて仰々しいため息を吐いてPCへと向き直る。
ここは相変わらずの忙しさで辺りを見渡せば20時を超えているのに、社員は半数以上も残っている。
それもこの前部長から聞かされた新しいプロジェクトのせいでもある、このプロジェクトは数年前から噂になってたもので誰もがメンバーに選ばれたいと渇望していた。
当然のようにリーダーに選ばれたのは、杉浦さん。 みんな彼の仕事振りは認めているし誰からも批判の声は上がらず当然彼も受けると思っていた……
だけど杉浦さんはアッサリとその大役を辞退した。
まあ、初めから杉浦さん頼りに遂行するつもりだったプロジェクトなだけに部長がそんな簡単に許す訳もなく渋っていたけれど、結局は頑として首を縦に振らない杉浦さんに折れて桜課長がその大役を引き継ぐ事になった。
杉浦さんがプロジェクトに入らなかった理由はただひとつ、奥さんのお腹に小さな命が宿ったから……しかもあんまり体調が良くないらしい。
この会社の奴らは誰も知らないだろうけど、実はカナリの愛妻家。
「ねぇ堀川くん、杉浦くんは?」
突然俺の後ろからそんな声が聞こえ驚いた俺はバッとそっちへ振り返る…
『桜課長』
肩越しに振り返った視界には杉浦さんの代理を務める事になった桜課長が立っていた。
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