飴か鞭か、それとも愛か

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「もしかして、あの女に惚れちゃった?」 クリニックに来ていた。 赤ちゃんが生まれたと先輩から連絡を貰って。 ちょうど今、先輩は席を外している。 「そんな訳ないじゃないですか。missionですよ。 すっかり忘れるまでは面倒を見ようかと。 まだすっかり断ち切れてはいないようですからね… 困るでしょ?また火がついたら…」 小声で話す。 誰にも聞かれないように。 ふと赤ちゃんを見る。 「先輩に似て、端整なお顔立ちですね! 先輩もお喜びでしょう?」 わざと大きな声で言った。 「ええ。 毎日おもちゃとか買ってくるわ。 嬉しいみたい。男の子だから。」 不気味に笑った。 あのことが本当かどうかは、はっきり言って判らない。 でも、先輩がそう思っているのなら波風は立てない方がいいだろう。 俺だけなら構わないが、真琴にもとばっちりが回ってきそうだ。 俺は決めたんだ。 あの支所で何年か勤めて本社に帰るときが来たら、会社を辞めようと。 あんなドロドロした場所にいたら、こっちまでヘンになる。 真琴を守って生きていくために、 今までの計算だけで生きてきた俺をやめる。 彼女の澄んだ瞳を、もう二度と濁らせないために、 仕事を捨てて、この狂った人たちと縁を切る決意をしたんだ。 真琴と共に。 まだ、彼女は抜け出せてはいない。 壊れそうな悲しい顔をしている。 まだ…先輩を… でも… だからこそ、俺がずっと傍にいるんだ。 俺は… 彼女を、愛してる。       end
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