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暗い闇夜、真っ黒な渓流の細波が蒼白く幾層にも煌めいている。
月明かりに照され輝きうねる波。
その薄明かりの表層下では無限の暗黒が蠢いている。
腕と首..いや全身が異常に重い、それでも息が出来ず水面に顔を出そうと私は必死に足掻く。
飛散する無数の水飛沫…既に全身は波に掠われる寸前にいる。
川岸に生い茂る葦に腕を伸ばしてみたが届くことはなかった。
私が脱力した両脚を思いきり開き踏ん張ろうとした瞬間、私の全身はズルりと川波に沈み込んだ。
辛うじて左腕が川岸の岩に引っ掛かり流されずに済む。
しかし、頭を上げ首を伸ばしてみたものの顔面は水面下にあって息が出来ない!
私は岩に抱きつこうとしたが、波のうねりに阻まれる。
私の鼻腔から出る水泡がブクブクと視界を遮る。
『苦しい!!』
岩にしがみつこうにも力が出ない、呼吸できない。
『苦しい!!』
もう私の口からは空気を出しきって、全身が痙攣を始めた。
もう死は間近に迫っている。
『死にたくない』
今まで幸福な日常に暮らしていた私だったのに…より楽しく素晴らしい未来を生きるはずだったのに…
幸福の絶頂から一瞬にして地獄に突き落とされた私だった。
『..たすけて..苦しい..誰か..苦しい..』
水中で激しい苦痛と圧迫に揉まれ…激しく身を捩(ヨジ)る。
すると次第に意識が遠くなり始める。
凄まじかった苦しみが和らぎ穏やかな平常心を取り戻す。
いまや朦朧となった私の思考は既に死の苦しみから解放されていた…
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