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秩の返事を聞くとトクは苦笑いを浮かべた。
「壬生狼は嫌いおす。そやけどね、人として見た場合にほんまに嫌いなんは僅かな人や。たとえばやなぁ、武田とかな」
秩もそうだろうと言う目でトクが帙を見る。
武田はずんぐりとした体格に四角い木箱みたいな厳ついかをして、かなり偉そうな態度の男だった。
「ウチも、嫌いどす」
「せやろ。やて、沖田はんはええ子どす。毎度ニコニコとてんご(冗談)ばっかりいってる人どす。
刀を持つとちゃうんかもしれまへんが、ウチん知っとる沖田はんはそないな子どす」
「へー」
秩が良く分からないような返事を返すと、会えば分かる事だと言ってトクは微笑む。
せやかて、人斬りなんやろ? ウチはおっかないと思うんやけど。
沖田はんってどんな人なんやろ・・・
秩は沖田と言う人物が思い描けなかった。
噂では剣の腕は壬生狼一で、人を斬る事を楽しむような鬼のような男だと聞いて居た。
しかしトクは良い子だと言う。それも何時も冗談ばかり言って笑っているような人だと言う。
あまりに掛け離れた印象に、秩の中の沖田は二つの姿を持つのだった。
「秩、今日はワレモコウとハッカを取りに行きますぇ」
九月も中頃になった為、秋の薬草を集めに行こうと秩とトクは急いで朝餉の片付けをしていた。
そこへ先程壬生浪士組の屯所・八木邸に呼ばれたばかりの新三郎が戻って来た。
そして驚くような事を口にした。
「トク、オトギリソウを出しとくれやす。後、葬儀が近々おます。着るモンの準備を頼む」
「葬儀って、どなたはんが亡くならはったのどすか」
トクは思い当たる人物が居なかったらしく、慌てたように新三郎に聞いた。
「壬生狼の芹沢はんどす。他にもおるみたいや」
「芹沢はんって、あん芹沢はんどすか?」
壬生狼の芹沢鴨と言えば、京の街で知らない者は居ない程の乱暴者である。
そして壬生浪士組の筆頭局長でもある。
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