第一章 兆す。

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 生憎、私は生まれながらのひどいカナヅチで、まったくと言っていいほど泳げない。  昔、父と遊びに行ったプールでは、溺れかけてプールサイドでずっと泣き喚いていた記憶がある。  むしろそれ以外の記憶がない。  ジタバタともがきながら、辛うじて水面から顔を出す。  しかし、足はどうやっても川底には届かず、絶望だけが胸中に広がった。  死んじゃうのかな、と来るかも分からぬ助けを呼び泣き叫んでいると、 「「それに掴まれっ!」」  二つの声と共に、ロープが括りつけられた浮き輪が飛んできた。  死に物狂いで必死にしがみつくと、そのロープの先を持っていた小さな人影が二つ、私の掴まった浮き輪を強い力で岸まで引き上げていく。  その時間は一瞬のようで、しかしとてつもなく長く感じられた。  やっとの思いで岸辺へと辿り着いた私は、ゴホゴホッ、と噎せながら河原に自分の体を抱き締めて蹲った。  どうしようもないくらい、体が恐怖と水の冷たさで震える。  ガタガタと小刻みに震え続ける私に、頭からすっぽりフードの付いたパーカーが羽織らされる。  顔を上げると、二人の男の子が不安そうに私の顔を覗き込んでいた。  一人は少し明るめの茶髪に大きなビー玉みたいに丸い瞳、そして真っ黒に日焼けした手足や顔のあちこちに絆創膏を貼っている。  もう一人は綺麗な黒髪にアーモンド形の綺麗な猫目で、同じく真っ黒だけど傷一つない綺麗な肌をしていた。  もしかしなくとも、この近所の子供だろうか。 「お前、大丈夫かよ?  見慣れない顔だけど、引っ越してきたのか?」
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