プロローグ

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「ねぇ……。 何で雪ちゃんに会えないの?」 喪服で身を包んだ男に、幼い男の子が必死にすがり付いている。 その表情は悲しみに満ち、涙と鼻水で顔はぐじゃぐじゃだ。 そんな男の子に、男はしゃがみ目線を合わせ、頭を撫でて慰める。 それでも、男の子は諦めきれない。 嗚咽混じりに、泣きべそをかきながら、男の子は泣き叫ぶ。 「テストで百点とるからぁ! かけっこでも一番になるからぁ! 僕、良い子になるからぁ! だからっ――」 「――いい加減にしろっ!!」 それを断ったのは、同じ年頃の男の子だった。 泣き叫ぶ男の子を掴み、強引に振り向かせて殴り飛ばし馬乗りになると、胸元を掴みあげた。 「雪姉はいねぇんだよ! いなくなったんだよ!! 死んじまったんだよ!!」 「よ、よっちゃん……」 「しっかりしろよ、正則」 その男の子の顔も涙に濡れていた。 唇を噛み締め、正則と呼ばれた男の子の胸元をくしゃくしゃに握りしめ嗚咽を堪える。 「ごめん。 ごめんね。よっちゃん…」 嗚咽混じりの声は次第に啜り泣く声に変わる。 その日。 早乙女 雪子の葬儀の日。 (さおとめ ゆきこ) その日を境に、 天宮正則と脇屋義助は変わった。 甘えん坊で内気な正則は、誰にでも優しい社交的な少年に成長し。 利かん坊で兄貴肌な義助は、無気力で気分屋な少年へと変貌した。 そして、7年の時が流れ。 高校1年の秋。 物語は動き始めた。
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