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宵口
夜の帳が降りて、満月が燦然と輝きだす。
目の前には見渡す限りの銀色の穂がなびく。
輪郭が仄かに透けて、風に揺れてシャラシャラと微かな音を奏でているのは歌っているよう。波打つ様はまるで海のうねり。
夜の闇の中で、月の光に照らされて、私は何かに手を引かれるように進んでいく。
ふと、鈴の音にも似た穂波の音に混じって、誰かの声が耳に入った。
「う……ぅう……」
男の子の声。
泣いている。
「あ……うあぁ……あ」
誰もいないはずなのに、その声の主はひたすら声を押し殺して泣いていた。
目に見えない何かに怯えるように。
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