ガーベラ

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 アカデミーを退学してから数ヶ月が過ぎていた。  最初の一ヶ月ほどは、何もかもが嫌になって自宅に引きこもっていた。必要最低限のこと以外では、部屋からも出ようとしなかった。母親も心配はしていたようだが、仕方ないと思ったのか、ほとんど何も言わなかった。  だが、一ヶ月が過ぎたある日、いい加減このままではいけないと思い立った。将来のことを考えるまでには至らないが、最初の一歩として、とりあえず何かアルバイトでもしてみようと考えた。  それを母親に相談したところ、近所の花屋が人手を増やしたがっていることを教えてくれた。セリカもその店の存在だけは知っていた。これまで何度となくその前を通ってきたのだ。ただ、花を買うことなどなかったため、一度も利用したことはなかった。  セリカは、そこで形ばかりの面接を受け、週5日で働くことになった。  店舗は小さいが活気のある店だ、というのが、働き始めて最初の印象だった。客はそこそこ入り、配達の注文もけっこう多い。人手が必要なのは嘘ではなかったのだとセリカは安堵した。実は、母親が雇ってくれるようにこっそり頼んだのではないかと、少し疑っていたのだ。  慣れない仕事ということもあり、最初は硬い表情を見せていたセリカだが、仕事を覚えるにつれ、次第に自然な笑顔にを見せるようになった。最近では、常連客と軽く世間話をするまでになっていた。一時期に比べれば大変な進歩である。しかし、これが彼女の本来の姿なのだ。進歩というより、元に戻りつつあると云った方がいいのかもしれない。
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