ロォマの休日

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  散り始めの櫻木が取り囲む園内を、瓦斯灯を模した明かりが柔らかに照らしている。 其のカップルが観覧車乗り場に現れた瞬間。 搭乗係員は、思わず、息をのんだ。 ひとりは、詰め襟風のシンプルな紺地のドレス・スーツの背に金髪を流し、深紅の薔薇の花束を手にした、一見、国籍不明の青年。 ひとりは、ボディラインをまろやかに魅せる絹地特有の艶が滲む、だが、すっきりと直線的に胸元の開いた象牙色のワンピースにアーミー・モティーフのベルトを落としたミドル・ボブの日本人女性。 飾り気はないが、どちらも上質ブランドのものと一目で分かる出で立ちである。 年下の恋人とパーティ会場から抜け出したミズ・セレブリティ……誰が見ても、そんなバック・グラウンドを想像するだろう組み合わせだった。 係員によって閉じられた箱が、ゆうるりと動き出し。 二人を乗せた鉄の箱は、次第に摩天楼に浮かぶ密室へと変わってゆく。 其のど真ん中で仁王立ちの女性の脇を、青年は、無表情のまま、すり抜け。 ゴンドラのフレームに背を当てるようにして、シートへ腰を降ろした。 そうして、花束を無造作にシートに投げ出すと、ゆっくり顔を上げ。 女性を見やり。微笑った。 「とりあえず、座りませんか」 それには答えず。「ふん」と鼻を鳴らし、対面のシートへ向かおうとした女性の背に、再び、青年が声をかけた。 「そっちじゃないでしょ、六代目」   振り返った女性――襲名したクリエ名を“六代目毒婦マチルダ”という――を前に、青年は、シートに片脚を上げ、軽く折った膝へ手を乗せ。 其処に出来た空間を指先で示した。 見ようによっては、カウチで寛ぐ青年が、甘え下手な愛犬を呼び止め、此処へおいで…と、手招いたような図だが、彼の前にいるのは、犬ではない。 頭の先から足元の影に至るまでドレス・アップした“毒婦マチルダ”なのである。 「は……!?」 相手の意図を掴みかねて困惑するマチルダに、半ば呆れ顔で青年が答えた。 「こんなもん、向かい合わせに座る莫迦はいないでしょうが」  
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