読み飛ばしても問題ない生前のお兄ちゃんの話

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  ハッと気がつくと、白い空間の中にいた。一瞬白い部屋なのかとも思ったが、それにしてはどこにも部屋の角がない。キョロキョロと見渡してみて、足元を何度か踏んでみて、どうやらここは現実ではないのだと理解した。 確か俺は臓器を売る為に殺された筈だ。ということはここはあの世?俺が天国に逝ける筈もないし、地獄ということになるのだが、何だかとても実感が湧かない。 「君って馬鹿なんだね」 「!?」 何もすることもなく前方を見て立っていたら、突然背後から声が聞こえた。驚いて勢いよく振り返ると、さらに驚くことが目に飛び込んできた。 「おいおいそんなに呆けないでくれ。死んでいないと思い込むのは勝手だが、間違いなく君は死んでいる」 「は…?」 目の前には、俺がいた。殺される前に着ていた服装で、同じ声と顔が、目の前にいる。ただ違うことがあるとすれば、もう一人の俺はとても余裕のある表情をしていた。 「お前は誰だ!?」 「さーて誰でしょう。しかし馬鹿な君にはとてもじゃないがわかるまい?」 挑発でもしているのか、ニヤニヤと笑いながら自分を指さしている。他人の姿なら違和感なく見れただろうが、それが自分の姿である為とても奇妙だ。 拳を握りしめて怒りを静めると、一度深呼吸をしてから目の前の俺に話しかける。 「…ああ、わからないな。もしかしたらドッペルゲンガーかと思ったが、そんなわけもないだろうし」 「ああ勿論だぜ。別にもう一人の君というわけではない。少しばかり安心したよ。君はただの馬鹿ではないようだ」 「…お前は一々ムカつく言い方をするな」 「そうかい?だがこの程度のムカつく言い方なんて、君は聞き飽きているのではないか?」 「え?」 「まあ良いか。取り敢えずこのままでは埒があかないだろう?君が気になっている正体を明かしてやるよ」 そう言うともう一人の俺は両手を水平に広げ、俺でさえしたことがないくらいの笑顔を浮かべた。正直そんなに笑ったことがないのでまるで自分ではない顔に見えてくる。はっきり言ってしまえば気持ち悪い。 しかしそんな俺の心情を察していないのか、まるで気にせず口を開いた。 「神様だ」
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