見えない見せない

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「でぇぇぇえい!!」 よく晴れた満天の夜空に、少し高めの声が響き渡る。 聖都オデュッセイアの外れに位置する小高い丘。そこに建てられた一軒の工房が、その叫び声の発生源だった。 「あーあ…また失敗かあ…」 ぐったりと作業机に突っ伏す彼女のそばには、標準的な大きさの人形がやや俯くように、足を投げ出した格好で座らされていた。陶磁器同士が触れ合うかすかな音がして、その人形がゆっくりと立ち上がる。 彼女は、深紅の猫目でそれをチラリと見ると、指で人形の頭を軽く撫でながら大きくため息を吐いた。無造作に伸ばされた黒髪をがしがしと掻き回しながら立ち上がり、人形を抱き上げて工房を出る。 「…この子もセイレーンに連れてくか…」 「どうしたリン、朝っぱらから大声上げて…あふ」 ぶつぶつと呟く人形師に、大きな欠伸を漏らしながら同居人がコーヒーで満たされたカップを差し出す。それをおとなしく受け取った人形師は、こくりと一口飲むと革張りのソファにどさりと腰を下ろした。膝の上で球体関節をかちゃかちゃと鳴らして甘えるように抱き着いてくる人形を撫で、「この子にも服を用意してあげなきゃね」と呟く。
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