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ユズの上体はグラリと崩れた。
支えを失い、長い髪を風になびかせながら倒れ込む。
今まで一人の男にしか奪われなかった唇を、いとも簡単にアスファルトに奪われた。
チックショウ、震える口から漏れたのは口癖にも似た悪態だった。
ここ数日、理論では説明できない出来事が起き続けた。
理解の範疇を超えた数々の出来事が鮮明に浮かび上がる。
────走馬灯か
しかし意外にもユズは冷静だった。
死は、覚悟出来ていた。
それでも、やはり溢れ出す涙は止めることが出来なかった。
目の前に倒れる二つの影、妹のキィと、唯一唇を許した男、カザトが倒れていた。
二人へ向けて手を伸ばす。
流す涙は大粒になり、いつのまにか嗚咽が漏れていた。
しかし、二人が目を覚ますことはない。
もう少し、もう少しで届くのに。
ユズの意識は、二人のすぐ手前で豪雨のような雑音に包まれ、触れた瞬間に鋭利な刃物で斬り落としたように消えた。
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