Case 16 ― オワリトハジマリ ―

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. 「しかし君、それだって顔も、実在する人物かどうかも解らないんだろう?それを宛もなく探すなんて」 「大丈夫です。必ず見付けます。そして……きっと彼女が答えをくれる。俺が誰なのか、どんなふうに生きて来たのか、これから何をするべきなのか」 「お兄ちゃん!」  浜から駆けて来た少女はピョンと跳ねて、腰を屈めた青年の首にしがみついた。 「エリカね、綺麗な貝殻見付けたよ。ほら!ピンク色なの」 「綺麗だね。これ、桜貝っていうんだよ。桜の花弁みたいだろう?」  小さな指で摘まれた貝殻を目を細めて見ると、青年は顔を覗き込み微笑んだ。 「うん。だから桜貝って言うんだね。エリカ、もう覚えたよ。ね、お兄ちゃんあっちで遊ぼうよ。行こう」  無邪気に笑うエリカが腕を引っ張る。  青年は少し困った顔をして、エリカの頭へ手を当てた。 「あのね、エリカちゃん……」 「エリカ」  青年の言葉を遮って、柿沼が口を開く。 「エリカ。お兄ちゃんはちょっと御用があって、お出掛けしなくちゃいけないんだ。だからパパと遊ぼう」 「ふぅん……」  エリカが大きな目で青年をじっと見る。  その唇が動く前に、柿沼がポンと手を叩いた。 .
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