-其ノ陸-

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「――照子ぉッ! 照子ッ! よかった! 生きていたッ!!」  ぽたぽたと落ちてくる涙を浴びながら、照子も彼と同じように泣いていた。  加賀屋の鬼に踏み潰されるあの瞬間、照子はシャギーに見られていることに気づいた。そのことが、功を奏したのだ。  息巻いて飛び出した癖に、何もできず敗北する自分。そんな情けない姿を、好きな人に目撃されてしまったあの瞬間、照子は――自分自身を恥じたのだ。この場合、穴に落ちる対象は照子自身となる。深い穴に落ちたことで、踏み潰されずに済んだというわけだ。 「待ってろ! すぐにロープか何かを見つけてくるから!」  照子が生きていたことで、シャギーの表情に笑顔が戻る。だが、それもすぐに曇った。 「何呑気なことを言っているんですかぁ? まだ何も解決していない。キミの目の前には、記憶を自在に操る最強の松ランカーがこうして立ち塞がっているだろうがァッ!」  存在を無視されたことが、余程気に障ったのだろう。市は普段の丁重な言葉遣いも忘れてシャギーに怒りを剥き出しにする。身構えるシャギーだったが、後ろの穴の中には照子がいるのだ。逃げることなどできない。 「――チッ! くそッ!」  千里眼に映る鉄骨の檻の消滅までの時間は、まだ二十秒ある。千代は鉄骨の隙間を掻い潜ろうとするが、どうしても脱出するには至らない。 「その穴の下にいる女の子、余程大切な人なんですねぇ。たったの一本なら、先程のような状態に戻ることもないでしょう」  ニタリと、市の口元が吊り上がる。周囲に出現した三匹のカマイタチが、揃ってシャギーへ鎌を向けた。そして、一斉に襲い掛かる。 「――ッ!」  成す術のないシャギーは、その場できつく目を閉じた。  せっかく繋がりを取り戻したのに、また照子のことを忘れてしまうのか。――そう覚悟をしたのだが、シャギーの中にある照子との思い出はこうして今も消えずに残っている。  恐る恐る、目を開く。視界に映ったのは、目を覆いカマイタチを操れなくなった市の姿であった。その周囲には土煙が巻き起こっており、どうやら彼の目には砂が入っているようだ。 「友のピンチに駆けつけるオレ。ハードボイルドだ!」  超高速からの急停止で市へ大量の砂を浴びせた張本人である風切速人は、フルフェイスの奥の見えない顔をキメ顔にして言い放つのだった。 「は、速人君……!」 「遅くなってすまんな、社木。皆も来ているぞ」  聞いた傍から、地響きにも似た轟音が辺りを包み込む。「な、何事ですかぁ!?」と、視覚を失ったことで動揺する市の背後に出現したのは、人を丸呑みするほどの巨大な龍。
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