たった一人の兄貴

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どうしてだろう。 目の前で冷たくなっていく手を握りしめながら俺はただ呆然と兄貴の顔を見つめた。 朝、兄貴が笑って家を出た。 昼、学校を抜け出した兄貴が引きこもりの俺に成人向け雑誌を好意で買ってきてくれた。 夕方、兄貴は帰って来なかった。 何時になっても。 病室前の廊下で男の子が泣いていた。 艶やかな髪を掬い上げ持ち上げるとサラリと流れ落ちる。 外で母さんの叫び声が聞こえた。 父さんは唇をかみしめやがら顔を覆った。 兄貴は……動かない。
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