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『……そんな事でダメになるようだったら、もうとっくに壊れてると思う。
だから、今まで二人で一緒に過ごして来た時間を信じて、カレシを大切にしてあげたらいいんじゃないかな』
廊下のスピーカーから聞こえる声が、心にすうっと沁み込んでくる。
放送を聴きながら、ただ目的もなく誰もいない廊下を進んで行くと、偶然2階の連絡通路に辿り着いた。
確か、放送部室はここを渡った左側にあるはずだ。
渡り廊下の先をしばらく見つめてから、わたしはそちらに向かうことなく廊下を直進した。
階段の前を通り過ぎたところで足を止め、頭上のスピーカーを見上げる。
『自分の気持ちをちゃんと話して、その上でどうしたらいいか考えても遅くないよ。
伝わってると思ってても、意外と伝わっていないことも多いと思う。
相手だって不安なんだよ。こっちと同じ。
今頃、カレシもパンダ子さんと全く同じようにネガティブに考えて、勝手に落ち込んでるかもしれない。
口に出さなきゃわからないことって、たくさんあるから。
まずは向かい合うこと。
応援してます。
それじゃ、ここで1曲。パンダ子さんのリクエスト、いきものがかりで「茜色の約束」』
私は廊下の壁に寄り掛かり、ぼんやりとその曲を聞いていた。
……どんな人なのかな。
こんなに暖かな声で語る人だから、きっとすごく優しいんだろうな。
目を閉じ、たった今まで聴いていた声の主を思い浮かべてみる。
想像の中のその人は、後姿だった。
かかっている曲のせいか、彼は茜色の夕陽の中、どこか寂しそうにぽつんとひとり、佇んでいた。
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