-1-

11/13
12437人が本棚に入れています
本棚に追加
/383ページ
『……そんな事でダメになるようだったら、もうとっくに壊れてると思う。 だから、今まで二人で一緒に過ごして来た時間を信じて、カレシを大切にしてあげたらいいんじゃないかな』  廊下のスピーカーから聞こえる声が、心にすうっと沁み込んでくる。  放送を聴きながら、ただ目的もなく誰もいない廊下を進んで行くと、偶然2階の連絡通路に辿り着いた。  確か、放送部室はここを渡った左側にあるはずだ。  渡り廊下の先をしばらく見つめてから、わたしはそちらに向かうことなく廊下を直進した。  階段の前を通り過ぎたところで足を止め、頭上のスピーカーを見上げる。 『自分の気持ちをちゃんと話して、その上でどうしたらいいか考えても遅くないよ。 伝わってると思ってても、意外と伝わっていないことも多いと思う。 相手だって不安なんだよ。こっちと同じ。 今頃、カレシもパンダ子さんと全く同じようにネガティブに考えて、勝手に落ち込んでるかもしれない。 口に出さなきゃわからないことって、たくさんあるから。 まずは向かい合うこと。 応援してます。 それじゃ、ここで1曲。パンダ子さんのリクエスト、いきものがかりで「茜色の約束」』  私は廊下の壁に寄り掛かり、ぼんやりとその曲を聞いていた。  ……どんな人なのかな。  こんなに暖かな声で語る人だから、きっとすごく優しいんだろうな。  目を閉じ、たった今まで聴いていた声の主を思い浮かべてみる。  想像の中のその人は、後姿だった。  かかっている曲のせいか、彼は茜色の夕陽の中、どこか寂しそうにぽつんとひとり、佇んでいた。
/383ページ

最初のコメントを投稿しよう!