-1-

10/13
12437人が本棚に入れています
本棚に追加
/383ページ
「この人ね。――昔、付き合ってた彼女を死なせちゃったことがあるんだって」 「え」  真っ先に声を上げたのは、不覚にも私だった。思わず自分の口を押え、体を引く。  一瞬遅れて、みんなが口々に「ええーっ」「なにそれー」と驚きの声を上げた。 「ちょっと待ってよーどういうシチュエーションよそれー」 「なになにどういうことーー?」 「しーーーーっ」  恵理奈が芝居がかった動きでみんなを鎮めにかかる。  見回すと、内緒話をしていたはずの私たちグループはすっかりクラス中の注目を集めていた。 「……詳しくは分からないんだけど」  さらに声を潜め、恵理奈は続けた。 「お兄ちゃんがそう言ってた。そんで、腕のとこに、その時に怪我した大きな傷が残ってるんだって」 「……なんか、怖いね」 「ああー、あれじゃないの?よくある、バイクの後ろに彼女を乗せてて事故った、とか」 「ええー?ドラマじゃないんだから」 「でもさ、ホントにそうだったらベタ過ぎてがっかりじゃない?」  クラスメイトの一人がきゃははは、と笑い、私はその甲高い声に耳を塞ぎたくなった。  ……笑うようなことかな。  見回すと、みんな調子を合わせて笑っていた。  きっと、誰も本当に可笑しいと思っているわけじゃない。ただこの輪から外れたくないだけだ。  “空気を読む”という概念がみんなの顔をまったく同じ表情に変えていく。  私は早々にお弁当を食べ終え、片付けを済ませて一人で廊下に出た。
/383ページ

最初のコメントを投稿しよう!