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「それで、なにが好きだって?」
そんなことわかりきっているはずなのに、からかいたくなったのかいづきに問いかける。
いづきは「え」と低い声をもらす。まさかそこを聞かれるとは思ってもいなかった。
「さ、さっきありがとうって言っただろ。わかってるんじゃないのか?」
「なにを?」
「うう……」
恥ずかしそうにしているいづきを見て楽しんでいるようだ。性格が丸くなったとはいえ意地悪なところは変わっていない。
「もう一回言ってみて」
「は、恥ずかしいってば」
できれば言いたくない、そう目で訴えかけているのに悠太は引きさがりそうになかった。
これは言わなきゃ終わらないかも……。いづきはぎゅっと服の裾を握りしめて、悠太を見あげる。けどすぐに目をそらした。
「……ゆ、悠太が好き」
「僕もいづきのこと好きだよ」
「ああー! もう! ずるくない!?」
自分とは違って難なく言ってのける悠太がずるいと思った。むっと頬を膨らませて、拗ねたような顔を見せる。
「なんで怒ってるの?」
「お、怒ってないよ。でも、その……慣れてるなって思っただけ!」
それだけ言って毛布の中へと逃げこんだ。
悠太は過去に梅林と付きあっていたから、そういうことは慣れているに違いない。それがなんだか悔しくて寂しい。
自分も中学のとき恋人はいたが長くつづかなかったし子供すぎたからか、こんな感じにはならなかった。
「誰がなにに慣れてるの」
ちょっと呆れたような悠太の声。聞こえないふりをする。
悠太はため息をついたあと、ばっと毛布を剥ぎとった。そのままいづきの上に覆いかぶさり毛布をかぶる。一瞬にして目の前の光景が変わり、いづきは驚いたように大きく目を見開いた。
「慣れてるかどうか確かめてみる?」
「な、なに言って……」
鼻先が触れてしまいそうなほど顔が近い。互いの息がかかる距離だ。このままじゃ心臓がもたないと思うくらい、いづきの鼓動は速くなっていた。
悠太はいづきの手を取り、そっと自分の胸元へと当てる。
悠太の体はほんのりと熱くなっていた。それだけじゃない、いづきと同じように心臓の音が速い。
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