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『俺には、よくわからないけどな』
その言葉には、泉も同感だった。
大姫には大姫の求める幸せがあって、その「幸せ」を手に入れた大姫は、幸せそうだった。
ただ、それでも。
頼朝が大姫のことを心底案じて、心の底から愛しているのも、また本当のことだった。
愛娘の死を嘆く暇もなく忙しい日々を送っているはずなのに、時々、大姫が暮らしていたこの離れを訪れて、庭に植えられた植物達をじっと見ている、と頼家が教えてくれた。
その頃から、泉は政子の頼みで、大姫の身代わりをしていた由布の侍女をしていたのだ。
由布にとって、大姫の死は予想外のことだった。
自分は大姫の身代わりとして、天皇の妃になるものだと、確信していたからなおさらだった。
本来ならば、大姫の死を隠して、自分が天皇に嫁ぐべきなのに。
それができなかったのは、政子が自分に嫉妬して、それを邪魔したからだ―と、由布はそう考えていた。
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