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「氏郷さーん!早く早く!」
紫の髪を風に靡かせて足取り軽く道を進む青年は、幼い子供のように同伴する青年を振り返って手を振る。
数歩前を歩く氏郷は、その様子を微笑ましそうに見守っていた。
「忠興殿、あまり急ぐと茶菓子が崩れてしまいます」
穏やかに諭して左手を掲げる。その手には薄紫の包みが握られていた。
師の命で行きつけの和菓子屋へ向かったのが半刻前。待庵を出発した二人は、陽気に誘われ散歩気分であちこちを見て回りのんびりとした時間を過ごしていた。
『時間制限はありませんから』とは忠興の言である。
「それにしても、本当に良い天気ですねー。雪もそろそろ終わりかな?」
茶菓子の危機とあっては従わざるを得ない。氏郷の隣を歩き始めた忠興は、空を見上げて呟いた。
言葉に氏郷も頷く。雪国の城主でもある彼にとって、春の訪れは待ち遠しいものでもある。
「春かと思えば雪が降り…いつも糠喜びで終わってしまいますからね。いい加減桜も拝みたいですし」
「いいですねー桜!また皆でお花見しましょう!」
そんな事を話しながら、待庵の門前へと近づいていく。誰かが掃除したらしく、散らばった塵に代わり竹箒の跡が地面に広がっていた。
「そうですね。・・・でも、今日は今日で楽しみましょう」
「勿論です!久し振りの全員集合、楽しみだなぁ」
無邪気に笑う忠興に笑みに同意の笑みを返し、二人は並んで門を潜る。
それと同時に、忠興の表情が一変した。
「何か居る」
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