14/40
3981人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
私はやはりこの人には抗えなくて、結局、渋々助手席に乗り込んだ。 ドアをきちんと閉めたのを外から確認した吉川さんも、前から回って運転席に乗り込んできた。 「……」 気まずいこと、この上ない。 落ちた前髪をかき上げて整える吉川さんを視界の隅で感じながら、私はひたすら下を向いていた。 「ハンカチだけじゃ足りないので、これで拭いてください」 ふいに、吉川さんは、ハンカチと自分の着ていた背広を脱いで差し出してきた。 「え、……いや、いいです」 ていうか、そんな吸水効果ほぼゼロのスーツを渡されても……。 「かけるだけでもいいので」 「……」 エンジンをかけて車を発進させながら、そう言った吉川さん。 私は、押し返すことも出来ず、濡れたカーディガンを脱ぎ、言われたとおりに吉川さんの背広を肩から羽織った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!