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私はやはりこの人には抗えなくて、結局、渋々助手席に乗り込んだ。
ドアをきちんと閉めたのを外から確認した吉川さんも、前から回って運転席に乗り込んできた。
「……」
気まずいこと、この上ない。
落ちた前髪をかき上げて整える吉川さんを視界の隅で感じながら、私はひたすら下を向いていた。
「ハンカチだけじゃ足りないので、これで拭いてください」
ふいに、吉川さんは、ハンカチと自分の着ていた背広を脱いで差し出してきた。
「え、……いや、いいです」
ていうか、そんな吸水効果ほぼゼロのスーツを渡されても……。
「かけるだけでもいいので」
「……」
エンジンをかけて車を発進させながら、そう言った吉川さん。
私は、押し返すことも出来ず、濡れたカーディガンを脱ぎ、言われたとおりに吉川さんの背広を肩から羽織った。
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