数式41 -Side Osawa-

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『司くん、もうどこにも行っちゃやだよ…』 虚ろな目をした母が現れ、父を映した俺に手を伸ばす。 突きつけられた罪が胸の中で疼いた。 「…母さん、どうして…」 俺はまだ夢を見ているのかもしれない。 そう思いながら一歩近づくと、 『どうして傍についていてやらなかったんだ。様子がおかしいことくらい気づいていただろう。そんなに自分の夢が大事だったのか』 悲しい表情の父の姿が闇の中に浮かび上がった。 これは幻なんだろうか。 いるはずのない父の責める声が、ぐわんと脳を揺さぶる。 ふらつく足で二人の方に踏み出すと、ぎゅっと手が握り締められた。 「せんせ、行っちゃダメ」 「…浅田…」 まっすぐに見つめられて、じわりと胸が熱くなる。 …そうだ。 俺は彼女と一緒にいるって約束したんだ。 こんな俺を受け止めてくれた。 ひとりにしたくないと、手を握ってくれた。 混濁する記憶を必死に手繰り寄せる。 この手を離したくない。 離さなきゃならない。 ない交ぜになった感情がこみ上げ、足が震える。 ぐらぐらと地面が揺れているような気がした。 『耀司、おまえに幸せになる資格があるのか』 迷いをかき消すように声が響き、鋭い棘がぐさりと心に突き刺さる。 ぐにゃりと視界が歪み、手から温もりがすうっと消えた。 「浅田…?」 慌てて周りを探しても、姿は見えない。 俺はまたひとり。 世界は真っ暗な闇に戻った。 「耀ちゃん」 暗闇の中で、母の呼ぶ声がした。
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