数式41 -Side Osawa-

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恐る恐る顔を上げる。 険しい表情の父と母が俺を見つめていた。 「…父さん、母さん…俺は……」 引き寄せられるように、ふらふらと歩き出す。 それに合わせて、二人がすうっと遠ざかった。 「待って…!」 一歩進むごとにぬかるみに足を取られ、身体が沈んでいくのを感じる。 このまま進めば、きっとこの闇の中から抜け出せない。 それがわかっているのに、抗えなかった。 「…ごめん、俺のせいで……母さんも、貴司も…」 喉がひりつき、声が掠れる。 涙が溢れて視界を滲ませた。 幸せになる資格なんてない。 そんなことは痛いほどわかっていたのに。 「…わかってる。 ごめん、わかっているのに……俺だけ、幸せになんて…なっちゃいけないのに」 さっきまで手に感じていた温もりが胸を締め付ける。 彼女と交わしたいくつもの約束が心の奥で疼いた。 「…幸せだと感じることがあるんだ。前に、進みたいと…思ってしまう…」 何も言わずに俺を見据える父と母がまた遠ざかる。 許してほしいのか、罰してほしいのか、もうわからなかった。 二人はどんどん遠く離れていく。 何度謝っても、叫んでも、声は届かない。 焦燥感に駆られるように、もがきながら先へ進んでいると、後ろから母の声がした。 「耀ちゃん、そっちに行っちゃダメよ」 ビクッと身体が震える。 ゆっくりと振り返って、ハッと息を飲んだ。 「…え…?」 遠くに見えていたはずの父と母が、すぐそこにいる。 戸惑って後ろを向くと、今まで必死に追いかけていた二人の姿はもう見えなかった。
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