はじめに

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(まだ暑いけど仕方ないな……) 忌々しいセミの声が殊更に暑さを感じさせてくれる。 アイスを買いに行こうと部屋を出て、つい、いつもの癖で郵便受けをのぞくと、そこには見慣れない往復はがきが入っていた。 滅多に郵便なんて来ることがないから、それを見ただけでなんとなく気持ちが騒いだ。 差出人は荻野啓太・北田中学同窓会実行委員となっていた。 どんな子だったかすぐには思い出せなかったけれど、荻野啓太という名前にはなんとなく聞き覚えがあった。 それは、この年になって初めての同窓会のお知らせだった。 私は、当時、登校拒否に近くて、友達も全くいなかったし、父親の仕事の関係から、私達は中学卒業と共にその土地を離れた。 その後、数年してから両親が離婚して、母方についた私は姓まで変わったっていうのに、どうして私の住所がわかったんだろう?そんな疑問は感じながらも、初めてのお誘いに自分でも驚く程、気持ちが弾んでいた。 母は、それから、私とさほど変わらない年下の男性と一緒に暮らすようになり、私はいまだ出会いもないまま、一人ぼっちで暮らしている。 日常的に溜め込んでいた寂しさが人恋しい気分を募らせたのか、とにかく、その誘いが素直に嬉しく感じられた。 集合場所もそう遠くはない。 私はその場で出席することを決断した。
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