葉月ちゃんの受難

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「えー、であるからして、アメリカが自国を戦地にしないのは冷戦の影響が大きいせいであるからして」 「……っ、くぁ」  退屈な世界史の抗議を聞き流しながら、葉月はあくびを噛み殺した。  木曜六時間目の世界史は大敵だ。直前の五時間目が体育、その前が昼休みのせいで、疲労感と満腹感と眠気がMAXになってしまうのだ。  クラスメートの半分程は眠たげな目を凝らして板書をとっているが、残りの半分ほどは頬杖をついてうつらうつらとしていたり、舟を漕いでいたり、挙げ句の果てにはちらほらと机に突っ伏している姿も見える。 「…………」  そんなクラスメートの二の舞にならぬよう、葉月は眠気をこらえて中年男性教諭の一本調子な講義を必死に聞き続ける―― 「おーい、葉月」  突然、後ろから爽やかなバリトンの声で呼ばれた。 「……は?」  葉月は眉間に皺を寄せた。後ろの席には璃理が座っているはずだが、聞こえてきたのは璃理の声ではない。明らかに男の声である。  不審に思い、問い掛けが聞こえなかったらしく授業を続けている教師の隙を窺って振り向く。そして、 「…………」  葉月は絶句した。
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