21発の花火

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品川駅を過ぎてすぐ、車は波止場のような場所へと向かっていた。 予想外のことに柚子は軽く混乱する。 「何よここ、港?」 「ああ。品川埠頭」 「………なんでまた……」 柚子は窓外の景色から証に目を移す。 「クルーザー貸し切ったから」 「…………………」 柚子は意味を計り兼ね、ポカンと証の横顔を見つめた。 「……………は?」 「だから、ナイトクルージングに行くんだよ」 証はちょうどそこで車を停めた。 ハンドブレーキを上げながら、柚子に向き直る。 「言っただろ。お前の誕生日、東京湾に花火打ち上げてやるって」 「………………」 「3月で契約後だっつーから、前倒しで今日にした」 柚子は唖然として口をあんぐり開けた。 何……? 誕生日の前倒し……? 東京湾に花火……? クルーザーを貸し切り……? 「え……え────っっ!?」 柚子が素っ頓狂な声を上げると、証は煩そうに眉を寄せた。 「うるせーな」 「だ、だって、あれってマジで言ってたの…!?」 「………マジだけど」 当然だろうと言わんばかりに証は頷いた。 クラクラと目眩を覚えて柚子は強くこめかみを押さえる。 (………や、やっぱりスケールが違う……。手作りのケーキ一つにこのお返しって…しかも恋人でもないのに……) 揚げ句の果てに、誕生日の前倒しって、何なんだそれは。    
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