幸せひとひら

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隣の駅で降りると、既にたくさんの人でごった返していた。 そう言えば電車も、異様に混んでいたし、浴衣の人もたくさん居た。 私は右手に掴んだ一平の手を、改めてキュッと握る。 すると一平は私を見下ろし、柔らかく微笑んだ。 「俺ちょっと便所行ってくるから、お前、あの柱のとこで待ってて」 一平が、改札の向こうの、太くて大きな柱を指差す。 私は頷き、握り締めた一平の手をそっと離した。 こうして改札に向かって立っていると、改めて人の多さに気圧される。 そして圧倒的に、カップルの姿が多かった。 私たちよりずっと年上に見える二人。逆に幼く見える二人。 様々なカップルが手に手を取り合い、薄暗さを帯び始めた街へと流れてゆく。 いいなぁ浴衣。 思いながら、自分の服をそっと見下ろす。 思い付きで出て来たから、すごく普通の服で来てしまった。 一平に会えるって分かってたら、もっとオシャレしたのに。 一人いじけ、口を尖らせため息をこぼした。 「どうしたのー?お姉さん、一人?」 顔を上げると、ザッツギャル男と言った風の男が私を覗き込むようにしていた。 髪の色が驚くほど人間離れしているし、歯並びが悪い。 「寂しそうな顔しちゃって、誰待ってるの?来ないの?」 すごい、質問攻め。 初めてのナンパというものにたじろいでしまった私は、 ハッとして目線を上げ、そして、改札を出たところに一平が居るのを見つけた。 一気に顔が華やぐのが、自分でも分かる。 「すいません、連れ居るので」 逃げるようにギャル男から離れ、一平のところまで小走りで行った。 一平は不思議そうな顔でギャル男の居た方をチラリと見やって、ナンパ?と聞く。 私はもう振り返れなくて、一平の手を取り駅から出ようと促した。 「百合ってさ、この祭り来るとモテるよね」 花火大会の会場までの道すがら、出店で買ったわた飴を頬張る。 「え?何それ、どういうこと?」 「中二でこの祭り来た時もさ、お前、加藤先輩に告られたとか言って調子乗ってたじゃん」 「別に調子なんか乗ってないし」 「さっきもナンパされてたし。すっげぇギャル男に」 思い出したのか、ククッと笑いながら一平は言う。 「それにしても派手だったな、さっきの人」 やけに楽しそうにそう言うから、なんだか不満に思ってしまった。
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