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「大丈夫! 塩撒いといてあげたから!」
「……あ、ありがとうございます……」
「若くて可愛いってだけで嫉妬されるってホンマに理不尽やなぁ」
「いえ、そんな……」
さすがにこの年で『若くて可愛い』は厚かましい気がして背中がむず痒い。
………まあ、お手伝いさんの中では若いうちに入るのだろうが。
「あの…すみません。私泣いてしまって…化粧だけ直してきていいですか」
「うん、いいよいいよ。今は忙しくないから、ゆっくり気持ち落ち着けておいで」
「………ありがとうございます」
麻里子の気遣いに感謝しながら、千波は化粧ポーチを取りにいつも着替えをしている一室に向かった。
ついでにパスケースをバッグに戻す。
ポーチとタオルを持って、千波は洗面所へと向かった。
どんな顔になっているか不安だったが、思ったよりはまだマシだった。
仕事上、薄化粧にしていたのでそれが幸いしたようだ。
「……………ふぅ」
一旦顔を洗った千波は、顔を上げてぼんやりと鏡を眺めた。
その瞬間、陸に頬に触れられたことや肩を抱かれたことを思い出し、鏡の中の自分の顔がボッと真っ赤に染まった。
(あーもーっ! だからときめくなって!)
千波は熱くなった頬を両手で押さえる。
もうすっかり感じることのなくなった、甘い甘い、胸の疼き。
それを陸に感じるなんて、自分は間違っている。
(ううん、これはただの憧れ! 恋愛感情とかじゃない! 向井 理に同じことされても絶対ときめくし! それと同じ!)
ぎゅっと目を閉じ、千波は何度も何度もそう自分に言い聞かせた。
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