3996人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「……こっちが無理な仕事、お願いしてるわけだから。忙しいだろうと思って……メールなんてしたら、邪魔になるんじゃないかと思ったんだよ」
「そんな……邪魔、なんて……」
「そうみたいだね。気を遣って損したかな」
苦笑してから私の方にそっと手を伸ばす。
その指先が、頬に触れる。
そこで初めて、我慢していたはずの涙が、頬を伝っていたことに気がついた。
拭おうにも、私はいま、凍り付いたようにただ神谷さんを見つめることしか出来なかった。
「……そんな顔されると、期待しそうだよ」
「え……?」
神谷さんの小さな呟きは、バルの喧噪に淡く溶けた。
.
最初のコメントを投稿しよう!