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田辺くんがポッキーを4.5本まとめて口に入れ、パキッと前歯で折った。
バリ、バリ、といい音をさせながら、もう一方の手で雑誌をめくる。
「で、――もうヤッタの?板東先輩とは」
「……田辺くん……」
わたしの渾身の睨みにも、彼は全く動じなかった。
「へえー、まだかあ。椎名はほんと、奥手なんだか早熟なんだかわかんねえなあ」
「な、なにそれ、早熟って」
「みんな言ってんぞ」
田辺くんはポッキーの中身が空になっている事に気付くと、蓋を人差指でひっかけ、ごみ箱にぽいと落とした。
カコン、と間の抜けた音が響く。
「清純そうなのに、放送の時になるととたんにキャラ変わるって。
急に、ぐっと大胆な女になる、みたいな?……あ、自覚、ない?」
「そんなこと言われても……よく分かんないよ」
「お前、顔は幼いじゃん?それがたまんないらしいぜ、マニアには。
お前の彼氏も、そうなんじゃね?」
……マニアって……。
「だから、速攻で押し倒されてるかと――」
「田辺くんっ」
精いっぱいの抗議をして、……ちらり、とテーブルの向こう側を窺う。
「……」
……機嫌、わるっ。
春山先生は、わたしたちの会話が耳に入っていないかのように、全くの無表情で投稿用紙を眺めていた。
木曜の放課後。
今日ははじめからこの調子だ。
話しかけても生返事か、無視。
二人きりの重苦しい放送部室に田辺くんが入ってきてくれた時は、助かった、とすがるような気持ちになったけれど、開口一番、
「椎名、お前すげえじゃん。サッカー部の王子様と付き合い始めたんだって?」
と言われた時には、思わず両手で彼の口を塞ぎたくなった。
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