第1話

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 この近辺の森に見たことのない鹿が現れる。  そんな話を陸上部の気にかけている女から聞いた。  俺は休日その女とその森へ鹿を探しに行くことにした。  しかし、待合場所に到着しても女は一向に現れなかった。約束時間もとうに過ぎていた。  ふとその時、視界に見たことのない生物が姿を現した。  二本立ちする鹿だ。その鹿の前足は人間の手のように5本の指が付いていた。 「なっ?」  これが噂の鹿か。  俺は多少気にはなったが、約束通り来なかった女のことは放っておき、鹿を追跡することにした。  鹿は森の中へと入っていった。 「ま、待てー」  全力で追いかけるが、その鹿もかなりの速さで前足を上下に激しく振りながら二本足で走っている。  はあっ、はあっ。  もうだめだ。  疲れた俺はその場に立ち止まった。  そして、諦めた表情で鹿がさっきまでいた所を見る。  すると鹿が立ち止まり、待っていてくれていた。 「な、なんだ? この鹿は何がしたいんだ? 俺に着いて来いといっているのか? 誘っていやがるのか?」  訳が分からず、混乱する俺。  しかし、体力が回復すると再び鹿を追いかけることにした。  鹿は俺の足の速さに合わせ、逃げているかのように思えた。  まるで掴めない幻想の花を追いかけているかのようで、心の中は切なさや、もどかしさといった感情が芽生えた。  すると、視界が開けた。  ようやく森を抜けることが出来たようだ。  俺は辺りの景色をぐるりと一望する。  
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