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店先から声をかけた。
朝早くから、店はにぎわっていた。
この店の誰一人として、お梅が死んだことを知らないのだ。
「御免、私、新選組の沖田と申します」
手代に案内され、奥に通される。
客間で出会った菱屋の主人は、ごく平凡な中年男だった。
何といって特徴のない、まぁ強いて挙げるなら髷がひょろりと細い事か。
町人風に結った髷は、髪の少なさを表すかのように貧弱だった。
『まだ、四十代前半といったところかな……』
――そりゃ、この人と芹沢局長を比べたら芹沢局長の方がよっぽど魅力的や。
お梅を身請けた男を前にして、あたしは失礼な事を思っていた。
沖田の記憶の中で、豪快に笑う芹沢の姿が浮かぶ。
胸にジクリと、鈍痛を感じた。
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