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その日に見た夢は、今もよく憶えている。
当時あたしが夢中になっていたケータイ小説のワンシーン。
登場するのは、縁側に腰掛けるひと組の男女。
新選組副長助勤一番隊組長、沖田総司と……
「なぁ、沖田はん。
うちの我儘聞いてくれはる?」
女が下を向いたまま、沖田に話しかけた。
「はあ、」
沖田は、どこか気のない返事をした。
「あんな、芹沢先生の事なんどすけどな……
もしも、もしもあんさんが芹沢はんを殺すことになってしもうたら、うちも一緒に殺してくれはります?」
「!………」
沖田が息を呑む。
何気なく話された話の重さに、途方に暮れた顔で女の方を見る。
反するように女はゆるりと沖田の方に顔を向けた。
「なんで……お梅さん。……貴女いったい……」
「ふふ、なんてお顔。
せやかて、新見はんのお腹詰めさしたん、あんさんらやろ?
うち、知ってますえ」
沖田はそれ以上何も言えなかった。
きっと彼はこの女を好いていた。
お梅と呼ばれた女が再び下を向き、白いうなじを見せた。
あたしはただ、彼らのやり取りを傍観していただけだ。
お梅は色の白い、ふっくらとした印象の小柄な女だった。平成の女の子たちのような、派手な可愛さは無い。
しかし紅梅の花の如き色香を漂わす美しさ。そこに凛とした強さを感じた。
そして、沖田は……どこか、あたしと似ていた。
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