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「わたしが悪いの。
突き飛ばした弾みで月子ちゃんが倒れて、頭を打って……それで、通りがかった先生が月子ちゃんのこと、保健室に…」
「萌先輩、人、良すぎ」
更科くんがくすっと笑った。
「月子がよく使う手ですよ。突き飛ばされたふりして失神した演技するの。
中学の時も、目を付けられた先輩から呼び出されるたびに、同じ手を使ってましたよ。…月子のこと、甘く見ない方がいいですって。」
わたしは呆気にとられて更科くんの顔を見た。
「まあ、春山先生がその場にいたのは、あいつにとってもラッキーだったと思うけど。
…いや…。下手したら、それも計算ずくだったかも」
「そんな…。でもほんとに、呼びかけても全然反応しなくて…」
更科くんは困ったように笑って、
「だめだなあ、萌先輩は。そんなだと本当に負けちゃいますよ、月子に」
「……」
わたしは、信じられない思いで口をつぐんだ。
「ミツル。もう分かったから、その辺でやめとけって」
田辺くんが言うと、更科くんは肩をすくめ、立ち上がった。
「これ、文化祭のシフトですよね。…一枚、貰って行きますね」
そう言ってクリアファイルからプリントを一枚抜き出すと、鞄を手に取った。
「萌先輩」
更科くんがテーブルの向こうから身を乗り出し、俯く私に語りかける。
「このままだと、ほんとにまずいよ。先輩も、やり方を変えなきゃ。もうちょっとうまく動かないとさ」
わたしは驚いて、更科くんの顔を見上げた。
「月子は、…顔が似てる事を除いても、かなり手ごわいから」
ボソッと呟いた更科くんの言葉に、わたしは目を瞬いた。
…え…。
戸惑っている間に、更科くんはさっさと出口に向かい、部室から出て行ってしまった。
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