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リビングのドアを開けると視界にソファに座ったコウが入ってきた。
コウは帰って来てからあまり時間が経っていないのかスーツ姿のままテレビを見ている。
…コウがいる。
そう思うと嬉しくて、私は鞄をテーブルに置きながら大きな声で言った。
「た・だ・い・ま」
「…」
でもコウからは何の返事もない。
あれっ?無視された?
私はこの違和感を不思議に思い、その場に立ち止まるとコウを見た。
…いや…そうは見えない。
たぶん気づいていないと思う。
だって、よーく見るとコウはテレビを見ていなくて宙を見ながらぼんやりとしているから。
「…コウ?」
私はそんなコウが心配になり目の前に立つと覗き込むように見た。
するとようやくコウも気づいたのか私に微笑みながら言った。
「ああ…ミウ帰ったんだ」
その顔は微笑んでいるけど、どこか寂しそうで。
でもだからって詮索されたくなさそうで。
だから私は聞いちゃいけないと思い、「うん」と言うと隣に座った。
コウは私が隣に座っても何も話さなかった。
ただぼんやりと宙を見ているだけで、静寂がこの部屋を包んでいる。
私はそんなコウに寄りそうにように、ただ隣に座っていた。
そしてしばらくの静寂の後、コウはポツリと言った。
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