彼女にはかなわない

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デスクの上を片付けると、ほぼ人のいなくなったフロアを見渡した。 この間まで、高揚した気持ちになっていた毎週水曜日が、憂鬱で仕方がない。 そんな思いを吹き飛ばすように、ふーっと大きく息を吐き出した時だった。 「ほい、行くよ!」 手に持った封筒で俺の頭をピシャリと叩き、先を歩き出したのは、同じ案件を抱えて否応なしに一緒に連日残業の日々を過ごしている先輩、田代 加奈。 三つ年上。 かなりの童顔。 これで来年三十路だっていうんだから、ホントに女ってわからない。 週に一度の定時退勤日(とはいえ一時間オーバー)、仕事終わりに「ほい、行くよ!」なんて、一体どこへ行くというのか。 しかも、俺の頭を叩いたそれ、取引先への手紙ですよね? 「行くってどこに?」 訝しげに問う俺をちらっと見て、ニッコリ笑顔を浮かべて田代女史は当然の事のように言う。 「どこって呑みに」 そんな約束してましたっけ?
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