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「シンクレア家のお嬢様がご機嫌ななめなのかい?」
ルシエルは、ここの屋敷の主を思い出して、嘆息する。
齢五十になろうという老嬢だ。
「‥‥あたしが、悪いんです。
あたしの頭の悪いのがいけないんです‥‥。」
少女の言葉には田舎訛りがある。
「何があったの?」
「お金が、合わなくて。
それを執事のジェラルド様に指摘されて。
私、今日、請求書のお支払いに商店をまわったんですけれど‥‥。
ちょっとしたお使いもできないの?』ってお嬢様がそれはそれはお怒りになって。」
「そう。でも、ひどいな。顔を叩くなんて。
それに、こんな時間に家を追い出すことはないよね。
もう暗くなるし、最近は物騒だしね。」
小間使いは声をあげて泣き始める。
「あたし‥‥あたしには小間使いなんて無理なんです。
字も読めないし。計算も習ったことないし‥‥。
こちらに働き口があるってきいたときも、てっきり、下女か、したっぱの料理女だと思ってたので。
あたし、力仕事には自信あるのに‥‥お行儀も口のききかたも出来てないって、毎日怒られてばっかりで。
しゃべりかたも、田舎臭くてみっともないって‥‥。」
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