天獄のイデア

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 ガウゥ!  《天使》は唸る。  それは辺りに轟き、大気を震わせ、地は揺らぎ、圧倒的な存在感を示す。  滑らかな白銀の鎧が、意思を持って起動しているような――何処か人工的な――異貌のフォルムをした存在。  それが《天使》だった。  四足歩行の《天使》は、例えるならば虎だ。  ただ違うのは、顔がのっぺりとしている事、山を思わせる巨体さ、そして身に纏う神秘性である。  とても生物だとは思えない。  遥か広大で真っ白な一室に、その異常とも言える生物が、君臨しているのであった。  その眼前に、六人は立っていた。  皆、身体のラインを際立たせるような黒のスーツで身を包んでいる。装飾は少ない。  そして、全員が全員、あどけなさを含んだ青い顔立ちをしていた。まるで軟弱な小動物の群れだ。  「あれを、倒すんか?」  彼らの中で特に大柄な久崎は、眼を大きく見開き、口をだらし無く開けていた。その上、立ち尽くすばかりの身体は、恐怖に震えている。  「そ、そうみたいだね」  相槌を打ったジョンの手は、汗でジットリ濡れていた。ただでさえ白い肌は、まるで蝋のようで、血の気がない。矮躯は小刻みに震え――明らかに眼前の《天使》に恐怖を覚えている。  少年少女ほぼ全員が、彼ら二人と同じ心境であった。  怖い。  悲鳴をあげる事すら忘却させる異常さが、恐怖となって彼らを蝕んでいた。
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