肴.5

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「いったい何しに来たんだよ」 妻の死体を引きずりながら、椅子に座っている美幸に聞いた。 美幸は、妻を殺した瞬間をその目で見ていた。ボーと突っ立ち、手に持っていた紙袋を、ギュっと握りしめていた。 忠幸は、無理矢理、美幸の腕を掴み、家に引きずり込んだ。しっかり握りしめていたはずの紙袋が、床に落ちる。 椅子に座らせ「少しでも動いたら殺す」包丁を彼女の目の前で揺らしながら言った。 「幼馴染みに、お土産を持ってきて悪いの?」 「いや…でもタイミングは悪かったな」 それからしばらく、二人は何も話さなかった。ただ、つけっぱなしのテレビが、くだらないニュースを伝えていた。 「続いてのニュースです。新潟市の風見町で起こった通り魔事件で」 そこでテレビを消し、忠幸は立ち上がった。 冷蔵庫からケーキとお茶を取りだし、テーブルに置いた。 「この町で通り魔か、物騒だな。」 そう言いながら、コップにお茶を注ぐ。それを美幸に差し出し、ついでにケーキを食べさせた。彼女は、なんの恐怖もなく、それを口に運んだ。 「美味しい」 彼女は、妻の死体の横で、満面の笑みを浮かべた。
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