† 後 悔 †

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蒼依が姿を消して、2日が経過した夜。蒼依の母、遥香は自家用車で勤務先から自宅へと向かっていた。 あれから、蒼依の行方不明を学校に伝え、周りの勧めに従って捜索願も出そうと思っている。 しかし、蒼依が忽然と消えたことは誰にも話さなかった。そんな非現実的な事を言っても、信じてもらえるわけがないからだ。 一般の親ならば必ずするであろう行為は一通り行う。これで、周りに知られることはないだろう。遥香が娘の帰りを望んでいないということを。 しかし…… ――蒼依がいなくなって、私は自由を手に入れた。自分の事だけを考えて、自分の為だけに生きていける。 それなのに……どうして心が晴れないのだろうか。むしろ、ぽっかりと開いた心の穴が日に日に広がっていく。 遥香が暗い表情で思いを巡らせる中、車は自宅前へと到着した。ガレージに駐車し、車から降りた遥香は真っ暗な自宅を見上げる。 夫の死から1年。母として精一杯頑張ってきたつもりだった。しかし、愛する人がいない日々は寂しくて、家計を支える分仕事は大変で……限界だった。 重くのしかかる仕事と生活。加えて、反抗期の娘との喧嘩が絶えない毎日。思い通りにいかない日々を投げ出したくて、逃げ出したくて、毎晩毎晩泣いていた。 過去の記憶を思い返し、遥香が小さく息を吐いた、その時…… 「遥香ちゃん!」 その声が、思い出の世界から遥香を引き戻した。振り返ると、恭の母親:松下宏海(まつした ひろみ)が血相を変えて走ってくるのが見える。 「宏海」 遥香が少し驚きながらも、宏海に笑いかけた。 遥香と宏海は高校時代の同級生。互いの結婚後も近所に住んでいた為、今でも交流は続いている。蒼依と恭が幼なじみなのも、その繋がりがあったからだ。
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